令和3年度の見学研修は、犬山市にある博物館明治村である。
学生時代から何度となく訪れてはいるものの、
今回は近代和風建築の住宅である作品に入り込み、
主人や職人のこだわり、風情や佇まいを味わう研修となった。
Part1座学編は11月12日、中川武氏(博物館明治村館長・早稲田大学名誉教授)の講義である。
新型コロナウイルス感染の予防対策として、zoomのオンライン配信(参加者31名)で拝聴した。
紹介された建物の中で印象に残った2点について、記述したい。
まず一つは、飛鳥様式の法隆寺である。
五重塔の上部が天上へとすぼまっていくかたちや、
金堂の深い軒下に雲形肘木が生駒山にかかる雲に呼応させる様は、
法隆寺がもつ役割である「遠くから人々に訴えかける建築」そのものである。
もう一つは、江戸中期の京都の角屋(すみや)である。
畳と和紙の規格がモジュールとして制約を与えることにより、
揚屋的な趣向を凝らしたデザインが自由に展開されている。
非常に斬新で自由な明障子の桟も和紙の幅を基準にしたゆえに出た産物。
これらの建物は、時代や思想といったものが大きく寄与して変遷しているということが強く心に残った。
Part2実地編は11月25日、博物館明治村において、
近代和風建築として秀でた2作品「東松家住宅」と「西園寺公望別邸坐漁荘」を見学した。
参加者22名を、1班、2班と半分に分け、見学場所をずらす配慮がされていた。
明治村文化財修理技術者がガイドとして同行し、
改修の際にみられた職人のこだわりについての話も興味深かった。
私たちの班は、まず「東松家(とうまつけ)住宅」を見学した。
もとは運河堀川沿いにあった商家を移築したものである。
江戸末期に平屋であったものを明治に2階部、3階部を増築した建物である。
2、3階は生活の場でありながら、渡り廊下を茶室までの露地に見立てるなど、
客人を喜ばせる仕掛けをふんだんに取り込んでいる。
増築の配慮として、通り土間の吹き抜けに高窓をつけたことにより1階部まで光を取り込んでいる。
増床する際に見落としがちな、光や風の通り抜けにまで配慮を欠かない造作であった。
次に「坐漁荘(ざぎょそう)」を見学した。
明治の政治家である西園寺公望が政界引退後に晩年の多くの時間を過ごした静岡県興津にあった別邸である。
2階の座敷からの眺めは興津の海の見立てに入鹿池を借景として取り入れ、
波光のきらめきを体感できる。
また、素材が持つ自然の形を住まいに取り入れる数寄屋造りを代表する建物である。
主人が好んだ竹の欄間の精密な造作をはじめ、優れた職人技が凝縮された作品である。
玄関の東面の襖には杉皮を紙表に模様として施してあるなど、
部屋ごとに違いを見せる襖紙へのこだわりに感心した。
意匠だけでなく、革新的な構造補強として海沿いの強風に耐えるべく主屋小屋組における交差梁を使用するなど、
建物の構造にも注意深さが慮れる。
コロナ禍が続く中、外に向けての活動をついつい規制しがちな状況が続いている。
反面、リモート会議などを利用して、講習に気軽に参加しやすくなり、
出不精の私にとって、一歩を踏み出しやすくなったのには不思議な状況である。
リアルに飛び出たからこそ、参加者からもれだす建築の蘊蓄を聞きながら、
普請道楽の作品の中にひたることができた良い経験となった。