30年の節目を迎えた「わたしらしい住まいづくり」は、計画段階から新型コロナウイルス感染症に見舞われたものの、
「女性建築士の作品展」と「30回記念セミナー」は滞りなく開催することができた。
一方、作品展会場での「無料相談会」と「住まいの絵本読み聞かせ&ワークショップ」は
対面で接することが避けられないために開催を見送った。
「女性建築士の作品展(1/13〜1/31:名古屋都市センター)」は、少人数で設営作業ができるよう、
例年通りの吊下げ展示ではなく置き型の展示とした。
また、作品提出方法については、メールによるデータ送信を主としたことにより、
提出のために会場へ足を運ぶ人数を減らしたとともに、事前に作品データが集まるメリットを活かして、
設営日までに作品のジャンル別分類と展示レイアウトを充分に整理することができた。
作品展テーマの「リノベーション」をさらに小分類し
(フルリノベ・部分リノベ・耐震リノベ・外まわりリノベ)、
その他に新築、パースなどの提案事例や女性建築士の活動紹介を含め計32作品が集まった。
会期中は延べ397名の来場者があり、
「分類別に整理されており見やすかった。」
「住みたいと思える家があった。」等の感想をいただいた。
「30回記念セミナー(1/31:オンライン)」は、社会学者の上野千鶴子氏より「3.11&コロナ後の建築」をテーマに講演をいただいた。
住棟配置やコモンの確保に知恵と工夫を凝らしたことで
地域のコミュニティ形成がうまくなされた事例がある反面、
ある県営住宅の事例では、建築家が想定したコモンからではなく、
実際には生活スタイルが似通った住民同士によってコミュニティが
形成されていたことが上野氏らの現地調査により判明した。
また、コロナ後の建築については、
1951年に公団住宅の51C型で提唱されたnLDK(nは家族人数-1の個室数)方式を挙げ、
夫婦と子どもから成る核家族の場合、nの数から引かれるのは多くの場合は母親で、
家庭内でプライバシーの確保がしにくいことに気付かされた。
最近では、在宅ワーク時に夫婦室を優先的に使うのは夫であり、
妻は都度空いている場所を探して仕事をするという話も聞く。
現在多種多様な世帯構成があるにも関わらず、依然としてnLDK方式は続いているが、
昨今では単身者や一人親世帯が集まってnLDK方式の建物を利用するシェアハウスやグループホームがある。
結婚を機に出て行ったが、離婚して子どもを連れて戻ってくることもあり、
それはまるで実家のようである。
偶然居合わせた血縁関係のない他人同士が互いに助け合い生活する様子を、
上野氏は「家族をひらく」と表現した。
セミナーには建築関係者だけでなく様々な職種の方々が全国各地より集まり、
参加者数は当初の定員枠を超える136名となった。
終了後110名分のアンケートが回収されたが、そのうちの約85%が女性からの回答であり、
女性学やジェンダー論を専門とする上野氏への関心の高さが伺えた。
最後に、30回の特別企画として3月に記念冊子を発行し、女性会員の方々への発送を終えた。
全30回の開催概要に社会情勢を併記した年表を、
過去のデータ収集からデザインに至るまで担当女性委員が思いを込めて作り上げた。
多くの方々にご覧頂けると幸いである。