去る3月7日、庭園見学会で川名山町の家を訪問した。
アプローチを進むとRC造の母屋と平屋の木造家屋が目に入る。
その建物と庭を通して、「家と庭の関係性」について作庭家の野村勘治先生に学んだ。
講義では、「八事に構想された理想的な屋敷」が建てられるに至った名古屋東部の歴史に触れて、
その奥深さに引き込まれた。
古くは鎌倉時代の和歌に鳴海浜の潮の音が聞こえる「音聞山」が詠われ、
江戸時代には風光明媚な行楽地になる。
そして昭和になると八事は分譲地として開かれ、
茶の湯の趣味人たちに人気の別宅地となった。
川名山町の家には、おおらかな茶の世界を反映した名古屋の屋敷の特徴がよく表れているということだった。
建物は南垂れの敷地にあり、元々の植生を活かしながら花木や灌木を取り入れて作庭されている。
庭の中央部は開けて、両側に並んだ樹木に緩やかに下る庭の先へと視線を誘導されて熱田方面を望むことができる。
戦時中に建てられたという建物はこじんまりとしているけれど、
庭を楽しむための広い縁があったり沓脱に貴重な石が使われていたり、
珍しい富士山型の手水鉢があったり…
さりげない贅沢さがとても素敵だなと感じた。
くつろいだ雰囲気の建物から眺める穏やかな風景。
3月に入ったとはいえまだ肌寒い日であったが、
咲き始めた河津桜が風景に彩りを添え、
春の訪れを感じることができた。
昭和初期に開けた八事地区であるが、
当時の屋敷跡はマンションや、小区画に分割されて新しい家に建て替わってきている。
そんな近隣のざわめきをよそに、当時の暮らしや歴史の背景を留める川名山町の家には、
今でも穏やかな空気が流れていた。